2005年3月25日

東京新聞2005年3月25日号記事「過剰摂取は有害の恐れ」に対する理事長コメント

 「コエンザイムQ10の過剰摂取は有害の恐れがある」とのマスコミ報道がときどきあますが,実例は一件も報告されていません.これに関するコメントは以下の通りです.

 本日,東京新聞で「コエンザイムQ10の過剰摂取は有害の恐れがある」との報道があった.事実誤認に基づく報道であり,看過できないのでコメントしたい.
 同報道で,久留米大学医学部松岡秀洋助教授は「過剰に摂取すれば,有害になることもある」と指摘しているが,有害事例は明示されていない.ご自身の「動脈硬化が進んでいる人ほど,血中のコエンザイムQ10濃度が高い」という研究結果と標記の意見には大きな飛躍がある.
 そもそも,動脈硬化の危険因子としてトリグリセリドやコレステロールが高いこと,すなわち高脂血症が挙げられている.一方,コエンザイムQは脂溶性物質であるために,高脂血症となるほどコエンザイムQ10レベルが高くなることは当然であり,事実である.AはBと相関する.BはCと相関する.しかし,これだけで,CはAの原因であるとするのは早計である.
 動脈硬化の重要な原因にリポたんぱく質の酸化があるが,コエンザイムQ10はビタミンEと協同して,リポたんぱく質の酸化を抑制するので,逆に動脈硬化の抑制因子であることが期待されている.
 松岡助教授はMedical Tribune誌2005年1月20日号では「コエンザイムQ10を経口摂取した場合の作用機序や代謝についてはほとんど未解明で,その利益や有害性を判断できる十分な臨床的証拠もない.」と認めておられる以上,「コエンザイムQ10の過剰摂取は有害の恐れがある」という一歩踏み込んだ判断,あえて言えば根拠のない判断は保留されるべきと考える.

 上記報道ではコエンザイムQ10は活性酸素と結びついて自身が酸化物質となると報じられている.これは全くの事実誤認である.周知の通り,コエンザイムQ10には還元型と酸化型があるが,体内では主として抗酸化力を持つ還元体として存在している.還元体は活性酸素・フリーラジカルを消去する過程で酸化型に変わるが,酸化型には何かを酸化する力はない.また,コエンザイムQ10由来の”酸化物質”が脂に溶けず蓄積すると書かれているが,そのような”酸化物質”は存在しない.
 現在のところ,米国心臓病協会が心臓病リスクを低減するものとしてコエンザイムQ10の服用を推奨していないのは事実である(R. J. Gibbons et al., Circulation (2003) 107:2979-2986).しかし,この判断も大規模な無作為コントロール試験結果を踏まえた強い結論ではない.今後の本格的な検討が待たれる.
 コエンザイムQ10は1974年以来長年用いられてきているが,深刻な副作用の報告はない.コエンザイムQ10の服用により,パーキンソン病初期の病状の進行を抑制できたとの報告があるが,このときのコエンザイムQ10用量は一日1,200 mg である.これを16ヶ月間服用しても深刻な副作用は一切認められなかった(C. W. Shults et al., Arch. Neurol. (2002) 59:1541-1550).さらに,52週間にわたるラットへの高用量投与(ラット体重1kgに対し1.2gのコエンザイムQ10)でも副作用は見られなかった(K. D. Williams et al., J. Agric. Food Chem. (1999) 47:3756-3763).
 上記事実をふまえれば,「コエンザイムQ10の過剰摂取は有害の恐れがある」と結論することは出来ない.欧米での一般的なコエンザイムQ10の摂取量は1日100-300mgであるが,過剰摂取とは一日何mgであろうか?
 本コメントが,一般消費者の皆様にコエンザイムQ10に対する理解を深めていただける一助となるよう願うばかりである.

日本コエンザイムQ協会理事長 山本順寛